三谷曜子 野生動物研究センター教授、辻井浩希 小笠原ホエールウォッチング協会主任研究員、岡本亮介 同研究員(研究当時)、村瀬弘人 東京海洋大学教授の研究グループは、東京都小笠原諸島の一部である父島列島周辺海域に繁殖のために来遊するザトウクジラの生息適地を初めて可視化しました。
小笠原諸島は西部北太平洋におけるザトウクジラの重要な繁殖海域の一つであり、毎年冬から春(12~5月)にかけて多くのクジラが沿岸域に来遊します。しかし、これまで、小笠原諸島の主な分布域となっている父島列島周辺において「どこがザトウクジラにとって重要な海域であるのか」は科学的に明らかにされていませんでした。本研究では、2013年および2015年から2018年の1月に実施した船舶による目視調査データを基に、2つの種分布モデルを用いてザトウクジラの発見位置と地形的要因との関係から父島列島周辺海域における生息適地を推測しました。その結果、ザトウクジラの分布には「水深」と「海底傾斜」が強く影響しており、特に水深が最も重要な要因であることが明らかになりました。また、ザトウクジラは「浅く、海底傾斜が緩やかな海域」を好み、200m以浅の海域の中でも、特に水深50~60m、海底傾斜0.5~0.8度の海域で生息適性が最大となることが予測されました。父島の西側海域では、東側海域と比較して生息適地がより広範囲に広がっていることも示されました。
本研究で作成された生息適地マップは、小笠原海域におけるザトウクジラの生息地利用をより深く理解することに繋がり、海域利用と保全の両立に資する重要な科学的知見として期待されます。
本研究成果は、2026年5月18日に、国際学術誌「Mammal Study」に掲載されました。
研究者のコメント
「小笠原諸島は日本国内でも有数のザトウクジラの繁殖海域の一つですが、これまで彼らの生息適地を科学的に可視化したデータはありませんでした。本研究では、その中でも主な分布域である父島列島周辺海域において『どこがザトウクジラにとって好適な場所であるのか』を明らかにすることができました。本研究の成果は、小笠原の海域利用と保全の両立のための基礎的な情報として価値のあるものと考えています。一方、他の地域では、母仔の群れはより浅い場所を好む傾向があるなど、群れの構成によって海域利用に違いがあることも明らかになっていますが、今回の研究ではその違いを調べることができていません。今後、群れ構成を考慮した利用パターンの解明や小笠原諸島全域に拡大した分布モデルの作成に取り組んでいきたいです。」(辻井浩希)