認知症の人における入院加療がその後の死亡率と医療費に与える因果効果を検証―丁寧な入院判断が重要―

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 池洲諒 医学研究科特定助教と米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究グループは、米国の公的医療保険(メディケア)の全国データを用いて、認知症の人における入院加療が、その後の死亡率と医療費に与える因果効果を検証しました。

 認知症の人は救急外来受診や入院加療を経験する頻度が高く、「入院させるべきかどうか」は重要な判断です。認知症の人は、不慣れな入院環境により合併症が起きやすく、入院によって身体・認知機能が低下する可能性があると指摘されてきました。従来の研究では、入院を経験した認知症の人は、入院しなかった人に比べてその後の経過が良くないこと(死亡率が高い、など)が示されてきましたが、これは「もともと重症である人が入院しやすい」ことを反映しているにすぎない可能性がありました。この「重症である人が入院しやすい」ことによるバイアス(推定したい効果の真の値からの系統的なずれ)を取り除かない限り、入院そのものの効果を正しく評価できません。本研究では、救急外来おいて患者が担当救急医にほぼランダムに割り当てられる一方で、救急医ごとに患者を入院させる傾向が大きく異なることを利用して、そうしたバイアスを統計的に取り除いたうえで入院の因果効果を推定しました。

 メディケアのデータで同定された約87万件の認知症の人における救急外来受診を解析した結果、認知症の人において、入院が救急外来受診後30日時点での死亡率に影響するという明確な根拠は得られませんでした。すなわち、入院が死亡率へ与える影響の方向や大きさをデータから確定することはできませんでした。一方、入院によって退院後を含めた救急外来受診後30日間の医療費が2,547米ドル(約38万円)増加するという結果が得られました。救急外来受診後90日時点でも同様の結果が得られました。

 この結果は「認知症の人における入院は、死亡率の改善をもたらさない一方で医療費増加につながっており、不要である」ということを意味するものではありません。重篤な急性疾患などに対して、入院加療が不可欠なケースも多くあるはずです。本研究は、認知症の人に対して入院の適否を迷うような場面では、在宅医療や外来診療でのフォローアップも含めた幅広い選択肢を慎重に検討することが重要であることを示唆しています。

 本研究成果は、2026年6月8日に、国際学術誌「Annals of Internal Medicine」にオンライン掲載されました。

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操作変数法による解析の結果、入院が受診後30日および90日時点の死亡率を改善する、もしくは悪化させるという明確な証拠は得られなかった。一方、入院によって医療費の増加が認められた。エラーバーは95%信頼区間を示す。作成:池洲諒

研究者のコメント

「認知症の方は救急外来受診や入院加療を経験する頻度が高く、『入院させるべきかどうか』は重要な判断です。これまで『入院する認知症の方は予後が悪い』という報告がありましたが、それは『重症だから入院した』という選択によるバイアスを反映しているにすぎない可能性がありました。本研究では、救急医への割り付けがほぼランダムであるという状況を活用することで、このバイアスの影響を取り除いたうえで入院の因果効果を推定しました。

結果として、入院が死亡率に影響するという明確な証拠は得られませんでした。一方で、医療費は入院によって増加することが示されました。これは、入院の適否を迷うようなケースでは、外来でのフォローアップや在宅医療も幅広く選択肢に入れて、入院判断を慎重に行うことの重要性を示唆しています。

認知症の方における入院が全く不要というわけではありませんし、本研究の結果だけで入院判断を変えるべきだとも言えません。しかし、認知症の方にとって本当に価値のある入院かどうかをより慎重に見極めるきっかけとして、本研究が役立てばと思います。」

研究者情報
研究者名
Ryo Ikesu